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2007年10月28日

火吹きパフォーマー

このあいだ代々木公園の帰り、火をふくパフォーマーを見かけました。話を聞けば、オーストラリアから日本に来て5日目。貯金も予算もほとんどなく、知り合いやツテをたどって“カウチサーフィン”をしているんだとか。知り合いになった人の家に1週間とか2週間とか居候させてもらって世界中を旅するというパフォーマーでした。ベッドではなくカウチ(ソファー)に寝泊まりして歩く日々。芸は身を助けますね。

原宿駅前で着々と火の準備を進める様子を見ていて思わずぼくは忠告しました。「こんなところで火を使ったら、すぐつかまるよ。そもそも東京じゃライセンスが必要だよ」と。そうしたら余裕の表情で彼は言いました。「へぇー、昨日もここでこれやったけど、大丈夫だったよ。それに、世界中どこにいっても同じだよ、火は禁止。そんなの関係ないよ」。そういうと、さっさと火を回し始めたのでした。

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まったく日本語なんてダメなのに、足を止めて集まった客を楽しませて、さっとお金を集めてすぐに店じまい。手慣れたもんだなと思いました。火の扱いもうまいし、スタッフやポイのキレがいい。

20歳までシェフをやっていて、ふとしたきっかけでサーカスに転身。以来、14年ほどファイアーパフォーマンスで旅してるという話でした。スペインにある世界最大のクラブで、1万4000人の観衆を前にやったこともあるんだとか。

原宿駅前でパスタを食いながら、いろいろと話を聞いてみました。ベジタリアンで占い師。実家は土地持ちで兄弟でいずれ相続することになるとか。土地はかなり広い、という。「広い」というのが日本人の感覚で分かるようなサイズではないらしく、シドニー郊外の「広野」を所有しているような感じらしい。それで30歳を超えて貯金がゼロでも余裕があるのかもな、と思いました。「東京は初めて。パフォーマンスは、どこでやればいい? 今週末の目標額は6万円だったんだけど、今のところまったく話にならないね」。

背が低く小太り。すでに髪も薄くなりはじめていてイケメンとはほど遠いのに、火を扱っていると、なかなかに男前。ノリがよく、代々木公園で知り合ったポイを回す女の子たちに、ちゃっかり電話番号を聞いていました。

ちょっと身の回りにいないタイプで、不思議なやつでした。占いはシャレかと思ったら、どうも自分自身が信じているらしい感じ。ベジタリアンになったのは前の彼女の影響だけど、肉を食べないほうが精神が研ぎ澄まされて「声」がよく聞こえるというんです。

ぼくは占いのようなオカルトは一切信じないし、有害無益で撲滅すべきとまで思っていますが、何だか彼にはそういう次元を超越した不思議な人間的な魅力があったのでした。後からもらったメールを見ても、酷いスペリングで、いわゆる教養があるタイプではなさそうですが、ちゃんと人と向き合っている感じが伝わってくる誠実な文面でした。表層的な愛想は言わないで、ぐぐぐっと迫ってくる感じです。

“ストリートワイズ”に長けているという印象です。どうやって生きていくか、どうやって人と接すればいいかに関して、かなり深い洞察と、ある種の確信を持っているようでした。草の根活動的なところから、SIMカード販売の携帯電話ビジネスの会社を友達と興そうとしていたりもして、たくましいもんです。

「火を使うと捕まる」だなんて、やったこともないくせに忠告するなんて頭でっかちな話ですよ。彼は火の扱いをサーカスで叩き込まれたし、人の楽しませ方も知っている。捕まるかもしれないけど、さっとやれば捕まらない。捕まったって、それで何だって話です。また場所を変えてやればいいだけ。そういう、文字通りストリートを生き抜く知恵が、彼にはある気がしました。

フーテンの寅みたいだな、と思ったのでした。

このブログを読んでいる若い人は見たことがないかもしれませんが、渥美清演じる“寅さん”は「男はつらいよ」という長く続いたシリーズ映画の主人公です。テキ屋稼業の風采の上がらない四十男で(実際にはシリーズの最後のほうは60歳を超えてた)、その時々でゲスト出演する女優に悲しい振られ方をして、最後は東京・柴又のダンゴ屋を後にして旅に出るというパターンの映画です。

毎回どう見ても釣り合わない“マドンナ”に惚れて、実際とても仲良くなる。相談になんか乗ったりする。しかし、最後にはいつも恋の相談に乗ることになり、あっけなく「自分など眼中になかったのだ」ということを知らされてしまう。しかし寅さんは、信頼して相談された手前、まさか自分が恋をしていたなどということはおくびにも出せない。ただ、映画を見ている人には、寅さんの失意が痛いほど分かる、というような映画です。

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東京・柴又の寅さんの銅像の前で

寅さんには学がないし、どうも、いつもどこか抜けている。つい感情的になって喧嘩もしょっちゅう。だけど、いつも弁舌爽やかで筋も通っている。ある種の揺るぎない人生哲学を持っていて、時々いいことを言う。自分に対しても他人に対しても、表裏がない。ブサメンだけど愛すべき男です。

寅さんシリーズが日本のお父さんたちにウケたのは(ぼくも大好きだった)、会社勤めのサラリーマンが、寅さんのような自由な生き方に憧れたからだと思います。高度経済成長を支えた「モーレツ社員」と呼ばれたような会社員たちです(年金問題のことを思うと、「支えた」とだけ言う気にも、もはやなれませんが)。

大学は出た。会社に入り、結婚もして安定した生活をしている。でも平凡な人生。ストレスも多いし、生きていく上で必要な嘘や建前が増えていけば、やがて狡猾にもなっていく。ちょうど核家族化が進んだ時代で、田舎から都会に出てきた人たちは、みんな人間的なつながりを失いました。下町暮らしで、近隣の人々みんなと顔見知りの寅さん、誰にでも軽口を叩きながら挨拶できる寅さんに憧れるわけです。

旅を終えて育て親のダンゴ屋に戻ると寅さんは、いつも喧嘩ばかりしていて周囲にも迷惑をかけたりするのだけど、周囲はそんな寅さんを愛してやまない。感情がぶつかり合っても、実に人間らしいやりとりにあふれています。

世のサラリーマンたちは寅さんの姿に、「オレもネクタイなんかはずして、人間として自由に生きてみたい」という思いを仮託したのでした。現実には寅さんのようになるのは無理だし、所詮寅さんは映画のなかの人だと、みんな分かっています。

旅先でご飯を食べるのに必要なお金だけ稼いで生きていく自由気ままなパフォーマーの姿に、ぼくは寅さんのような何かを見たのでした。

投稿者 ken : 2007年10月28日 23:40

コメント

やっぱり注意したほうがいいと思いますよ。
彼自身は大丈夫なんでしょうけど、それを見て技術もないのに真似して周囲に迷惑をかけるバカがきっと出てくるから。

投稿者 ちば : 2007年10月29日 11:42

 この人と同じような放浪する人に会ったことがあります。うらやましいです。
 寅さんと、彼に共通するのは、ふらふらしているようで、じつは帰ろうと思えば帰れるところがあるということでしょうね。前にあった人もそうでした。

 今、東京にいるリーマンの多くが、すくなくとも半分くらいが、じつはしっかりしているようで帰るところがないんじゃないでしょうか。
 だから、会社や社会でうまくやらないといけない。だから、つかまるようなことはできないのかなと。

資産を持っているからふらふらできるという、やっかみ半分な意味ではなくて、
世界を放浪できる精神的な根っこってのは、意外に物理的で現世的ななにかなんじゃないかな、という意味で、
そうしたものを持っているのがうらやましいです。
そして、迂闊にまねしちゃいけないのかな、と思います。

投稿者 にしの : 2007年10月29日 13:39

ちばさん、

注意したほうがいいというのは彼のような芸人のことでしょうか?
まあ火は簡単に見えますしね。実際、扱うだけなら、そうたいした技術も
不要なのでしょうね。

そういえば彼の友達は、これまで2人ほど病院に担ぎ込まれたといってました。
怖くないのかと聞いたら「これが仕事だからね」と肩をすくめたり。

にしのさん、

寅さんのことを根無し草だと思っている会社員こそ実は根無し草だと。
いや、まったく、そうですね。

投稿者 西村 : 2007年10月29日 22:14

この彼、ぼくも会いました!
地下鉄の通路を、歩いていると声をかけられました。
稽古帰りで、かばんからクラブがはみだしているのをみて、話しかけてくれたのでした。

そのときも、パフォーマンス場所を探していたので、
なんとかうまくやっているようで、なによりです。

機会がありましたら、
『しんのすけが「メールちょうだい」って言ってたよ』
とお伝えくださいm(_ _)m

投稿者 しんのすけ : 2007年10月29日 23:54

そうです。
前のコメントで述べたようなことについて彼はどう思っているのかが知りたいです。
もし「そんなことは自分の知ったことではない」と彼が思っているとしたら、私はそういう人とは友達になりたくないです。別に私と友達になりたいとは彼は思っていないでしょうが。

投稿者 ちば : 2007年10月30日 00:48

しんのすけさん、

おおお、目ざとい。彼はパフォーマーとか、できればエージェントと知り合い
になりたいと思っているようでした。クラブがカバンからはみ出てたら声をか
けるだろうなぁ。

ちばさん、

どうでしょうね、彼はどう思ってるんでしょう。過去にいくらでも体験談を含
めて聞いているでしょうから、そのへんの「危険の伝播」についても、何も考
えていないってことはないと思いますけど。今度会うことがあったら聞いてみ
ます。

不謹慎かもしれませんが、火っておもしろいですね。

本質的に危ないですし、怖い。事故もありえる。だから余計に見る人に何かを
感じさせるんでしょうね。何もかも整然と管理された社会のなかで、そこだけ
突然にむき出しの自然、それもかなりの力をもった自然が見えちゃうような、
そういう感じがあります。サーカスのように「管理された」環境で、「トレー
ニングを受けた人」がやっていると分かる場合にない興奮が、火を使ったスト
リートパフォーマンスにはあるように思います。

ちばさんが言うところのバカも何人か心当たりがあります。逆に、軽々しく危
険行為の真似をして周囲の迷惑や、起こりえる惨事について考えない浅はかな
人を嫌悪するちばさんのような「大人」も、何人も思い当たります。

その両方とも含めて、火は人をアツくするんだなと思わずにいられません。火
の話になると、みんな表情が変わる。

トレーニングを受けたプロのバイクレーサーが街角でハングオンしないのと同
じで、いくら火の扱いに慣れてるといっても街中で危険行為をするのはプロと
してどうかなとは思いますけどね。

投稿者 西村 : 2007年10月30日 10:58

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