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2008年03月25日

肘内症

ムスメの腕が抜けた。「肘内症(ちゅうないしょう)」というもので、よくあるらしい。手首と肘をつなぐ2本の骨のうち1本が肘とつながるあたりで、すぽんと抜けてズレてしまうというようなものらしい。靱帯の発達段階にある3、4歳ぐらいまでは、ちょっと手を引っ張ったりするだけで抜けてしまうことがある。

1度目は状況がよく分からず、泣き叫ぶムスメを見て慌てた。肩の脱臼なのか、ひょっとして骨折なのかと心配した。2度目も泣き叫ぶムスメの声を電話越しに聞きながらいたたまれなくなった。

いろいろ話を聞くと手こそ動かさないものの泣かない子もいるらしいから、泣き叫ぶほどの痛みが継続するものではない気がする。だからうちの子は、ちょっと大げさじゃないかと思うんだけど、それでもまあ泣き叫ばれると、自分まで辛くなるのが親心。

1度目のとき、近所のかかりつけの小児科に電話したら、その病院の向かいの整形外科を紹介された。すぐにタクシーで乗り付けた。出てきた先生は、かかりつけの小児科の先生同様に70代半ばかという年寄りで、一瞬「しまった」と思った。でも、実はこれが正解だったことが後で判明する。

ぶらんと垂れ下がったムスメの腕を見た瞬間に、ニコニコしたまま説明を始める先生は何もしない。のんびりと人間の腕の構造の話をはじめたりする。ぼくはせめて袖ぐらいはまくったほうがいいだろうと思って手を出そうとすると、もう診断は終わっていた。整形外科医にしてみれば、腕が抜けたときの状況説明と患者の年齢、腕の垂れ下がりのアングルを見ただけで肘内症というのは自明だったらしい。隣にいた小うるさい看護婦ですら、「ちゅーないしょーですよね、先生、ね、ちゅーないしょーでいいんですよね」というぐらい、誰が見ても分かるようなものらしい。

骨折などと違ってレントゲンに写るようなものではないらしいけど、骨折でないことを確認する意味でレントゲン撮影。レントゲン室から出てきたムスメは相変わらず泣き叫ぶ。痛いのか怖いのか不安なのか、パニック状態らしい。


レントゲンには映らない

相変わらずニコニコとしたまま先生はいう。「いいですね」。とっさに意味が分からなくて「どういう意味ですか?」と聞いたら、「このぐらいのことはあったほうがいいですよ、親になるってそういうことですよ」というようなことを先生は言った。肘内症は後遺症の心配がなく、年齢とともに起こらなくなる症状だから、そういうことも言える。

ニコニコしたまま年老いた先生はムスメの手を握った。「やーっ」と叫んでムスメは腕を引いた。引いた腕は胸の位置にまで戻っていて、一瞬で「はまった」らしいことが分かった。合気道の達人が指一本で人を吹っ飛ばすマンガチックな早業のような感じで、あまりに簡単に治療が終わったので拍子抜けした。年老いてもこういう能力は衰えないんだなと思った。レントゲン撮影をしている間にケータイでググりまくって、大体のところは理解していたけど、それにしてもあっさり治る。

みるみる間にムスメは落ち着きを取り戻し、何事もなかったかのようにご機嫌になった。我が身に降りかかった朝の不幸とか、両親の心配なんてことは、まったく自分には無関係だというぐらい、ムスメにとって肘内症は過去のできごとになったらしかった。

投稿者 ken : 2008年03月25日 23:47

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