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2006年09月03日

そこはかとなく悲しいクラゲたち

4774128570クラゲのふしぎ

jfish
技術評論社
2006/08/05

クラゲは嫌いだ。ゴキブリ同様、もし自分の身体に触れてしまったらと考えると、ぞっとして身が凍りそうになる。現物に触わるのが嫌だというだけじゃない。美しく印刷されたカラー写真もダメで、子どものころ、科学雑誌のページをめくるときに指がクラゲやイソギンチャクに触れないよう苦労した覚えがある。

そんなぼくを、意地悪な兄がからかった。海辺にうちあげられて死んでしまった水クラゲを、「ほれほれ触ってみ」と言いながら、ぼくのところへもってきたものだ。

年齢とともに、少しずつ平気になるもので、さすがに写真はだいぶ平気になった。でも、たぶんクラゲは触れない。そんなことで、むかしよく海で遠泳なんてしてたなと思う。泳いでいて、よくクラゲに刺されたものだ。

このさい一気に苦手なクラゲを克服しようと思って、ふと本屋でこの本を手にとった。

よく考えるとクラゲの生態って、ほとんど知らない。クラゲには雌雄同体の変なやつらがいて、水温によってオスになったり、メスになったりとか、そういう話を聞いたことがある。だから、かなり変な人達だということは知っていた。でも、何をどうやって食べていて、どうやって生殖しているのか、あるいは毒はどの程度のものをもってるのか、彼らは動きたい方向に動くことができるのかとか、知らないことだらけ。

やっぱり兄貴は間違っていた。専門家によると、クラゲはどんなに安全に思えても絶対に触ってはいけないという。ぼくは正しかった。クラゲは大きく有櫛動物門(ゆうしつどうぶつもん)と、有刺動物門(ゆうしどうぶつもん)に分かれて、有櫛のほう、身体に櫛状のものがある種類には毒がない。毒があるのは有刺のほうだけ。ただ、種類や毒の強さもさまざまで、素人がみて判断できるものではないという。1度目は大丈夫でも2度目に同じものに刺されてショック死することもあるアナフィラキシー反応も恐いので「侮るな」というのが専門家の意見。刺されたら砂でこすれという民間療法なんかも、ぜんぜん逆効果だったりするんだとか。かえって皮膚に刺さった針が奥に入って毒の回りを早めるだけらしい。

彼らは自分の意志で動きたい方向に動けるわけではないらしい。そもそも脳がないのだから意志はない。遊泳能力が低過ぎて、流されるままにしかならない。そうした水流に身を任せて生きる生物をプランクトンと呼ぶらしい。プランクトンはサイズが小さいもののことでなく、自力で水流にさからって泳げるかどうかで決まる。だから、クラゲはプランクトンと分類される。まあ、生物学者には好きに分類させておけばいい。常識的な語感と齟齬があるからといって、どちらかがどちらかに合わせる必要なんてまったくない。

クラゲとイソギンチャク、サンゴは同類。クラゲは、海底や岩石からペロンと剥がれてイソギンチャクがふらふらと泳ぎだしたというぐらいのもので、両者は本質的にそう違わないという話。実際、クラゲの一生にはイソギンチャクのように海底にへばりついている時期もあって、そこからペロン、ペロンと皮のような「エフィラ」と呼ばれるものが1枚1枚はがれて海に泳ぎ出したのがクラゲとなるという。

脳がないのに目があるそうだ。アンドンクラゲにはレンズや網膜っぽい組織があり、高度な構造をもった目をもつ。かなり「見えて」おかしくないのだけど、いかんせん脳がないので、いったいその目で何をしているのか、よくわかってないという。アンドンクラゲは埠頭などで人影から逃げ、灯りに寄って来るので見えていることは間違いないらしい。

しかし、そのアンドンクラゲの目で、何だかおかしいのは、それらの目がすべて内側を向いてること。傘の周縁にいくつかついている目は、外敵をみるよう外を見ていなくて、内側の自分の口のあたりを見ているという。クラゲは不思議な奴らだ。何を見ているんだ。

自力では少しずつしか移動できないけど、風力を利用するギンカクラゲという種類がいるらしい。お椀型の頭部を水面上に出して風の力ですいすいと泳ぐ。「この風力移動はなかなか効率が良く、自力遊泳に比べてかなりの速度が出せます。ただ完全に風任せのため、よく海岸に打ち上げられてしまうのが、ちょっと悲しいところです」。この著者(陣)、かなりいい味を出していると思う。クラゲに対する愛情と尽きない好奇心がにじみでた文章が、何ともほほえましい。

ミズクラゲは甲殻類をよく食べるので口(傘の中央)の回りに食べた餌の赤茶色が付く。水族館で見ていると周期的に色が変わるという。その様子を、著者の1人である久保田氏は、こう書く。

透明なクラゲが甲殻類を捕食すると、口柄の寝もとが餌の色に染まります。染まると満腹です。しばらく経つと、餌を消化するため色が消えてしまいます。消えると空腹です。なので、見ていて飽きません。

研究者や専門家というのは、こうでないとダメだ。

悲しい感じの努力をするクラゲはほかにもいる。自分の身体を割いて、分裂して増えるヤクチクラゲ。身体を引き裂いて分裂すると、分裂したどちらか一方にしか口がなく、餌が摂れずに死んでしまう。このため分裂に先だって、身体のあちこちに口を作るんだとか。悲しい努力というか、「そんなレベルの話かよっ!」と言いたくなる、単純なやりかただ。クラゲは繁殖戦略としてはきわめて成功していて、種類も生態もさまざま。おもしろいやつらがいるもんだ。

そのほか、有櫛動物門で毒がないはずなのに、なぜか毒があると思ったら、実は摂食によって有刺動物門のクラゲ類を採り入れて自分の武器にしちゃってるフウセンクラゲモドキの話だとか、傷ついて海底に沈んでゼラチンの塊となり果てたあとに、またその塊からニョキニョキと枝を生やして再生する不老不死のベニクラゲの話だとか、あるいは小部屋に小石を入れただけのようなクラゲの平衡器官の話だとか、はたまた特定のタンパク質を発光させることで動植物の病巣発見に役立つ研究に先鞭をつけたオワンクラゲの発光物質、イクオリンやGFPの抽出と遺伝子同定の話だとか、どの話も非常におもしろい。

巻末の「浮遊標本を作ろう」なんてのは、やっぱりぼくには気持ち悪くてしょうがないけど、こんなにクラゲの話に夢中になれるとは思わなかったというような1冊だった。

投稿者 ken : 2006年09月03日 22:40

コメント

I’d come to acknowledge with you on this. Which is not something I usually do! I love reading a post that will make people think. Also, thanks for allowing me to speak my mind!

投稿者 Mary Westenbarger : 2010年12月06日 10:08