2006年05月24日
英語習得の「常識」「非常識」
白畑知彦編著『英語習得の「常識」「非常識」――第二言語習得研究からの検証』(大修館書店、2004)
英語習得にかんする俗説の真偽を検証する本。「英語は左脳ではなく右脳で処理される」「言語習得の臨界期は15歳だ」「英語は日本語と使う周波数が異なるので英語耳を作らないと聞き取れない」「辞書を使わずに多読することで文法力や語彙力は自然とあがる」といったよく聞かれる俗説について、言語学研究、なかでも1960年代ごろから盛んになった第二言語習得研究の成果をもとに検証していく。
答えの歯切れが悪い。結論への関心が強いぶん、肩すかしを食らったような印象。要するに、研究者ですら外国語学習について、あんまりよく分かってないんだ。歯切れの悪さは、著者たちの研究者としての知的誠実さの現われだとは思うけど、それにしてもなぁ。
巷間あまりに根拠に乏しい俗説が瀰漫するさまに専門家としての義務感を感じての企画、執筆ということなのだろうけど、肝心の実証的データというやつが、思ったより蓄積されていない。たとえば、インプットの量は文法習得の度合いと相関があるかというような、きわめて基本的と思われる事項についてすら、データがなくてハッキリわからないというようなありさま。分かっていないことを「実はまだよく分かっていません」と言うことは重要だけど、それにしても、これじゃあ、第二言語習得研究の人たちって、いったい今まで何を研究してきたんですかと言いたくなるような惨状じゃないか。全般的にそんなふうに感じた。
1日5分聞き流すだけで英語ができるようになるとか、言語によって周波数がどうこうだとか、左脳右脳がどうこうというような、「そりゃダマされる方が悪い」と言いたくなるような極端な妄説については、否定あるいは疑義を差し挟むだけの反証データを、多くの実験や論文から引用して紹介している。
でも、もう少し微妙な話、たとえば辞書を引かない多読には語彙習得の効果があるのかといったことの真偽についてなどとなると、とたんに歯切れが悪くなる。引用されている論文の1つでは、結論は限りなく「ノー」。しかし、これは実は習得レベルにもよる話で、ある程度のレベルに達したら、これは当てはまらないとする論文についての言及が、欄外の注にあったりする。自分で論文に当たってみなさいということか。
うーん、全体にキレ味が悪い。おもしろい研究報告のデータもたくさんあるんだけどなぁ。特に、小学生に英語をやらせれば云々と言ってる無茶な人たちに、外国語学習と年齢の関係についての他国でのデータを広く知らしめるべきだ。単純に早く始めればいいってもんじゃない。社会全体としてみると膨大なリソースが外国語学習に振り向けられているというのに、肝心の外国語学習についての客観的なデータや議論がいつまで経っても蓄積されないのは、どういうわけか。非合理で情緒的、経験的な議論ばかりが拡大再生産されているのは、なにも語学学習という分野に限った話ではないのだろうけど。
投稿者 ken : 2006年05月24日 23:43